数日前の夜、ゴキブリが駐車場をウロウロしていた。ぼくは躊躇せず踏み殺した。その前も、ぼくの部屋に侵入してきたので、叩き殺した。彼らはいつも積極的に殺されている。
どうしてこうゴキブリばかりが虐待されるのだろう?彼らほど人類に忌み嫌われている虫もいない。彼らとしては何も悪いことをしているわけではないのだ。彼らはただゴキブリとして、まっとうに生きているだけである。
縄張りを侵害するから、人は彼らを死に追いやるのだろうか。たしかにゴキブリは人の家に侵入してきて、そこで一家を構える。
ではコオロギはどうなんだ。彼らも同じではないか。しかし、彼らは人の縄張りを侵したからといって、積極的に殺されることはない。それどころか、鈴虫と並んで、秋の虫の代表選手に祭り上げられている。
この差はなんだ?
人がゴキブリを忌み嫌うのは、その容姿がグロテスクだからだろうか?それならセミはどうなる。セミのほうがよっぽどグロテスクな容姿をしている。しかし、彼らは夏休みの宿題のために毒殺されることはあるが、叩き殺されるようなことは、まずない。部屋に紛れ込んできたら、殺さずに逃がしてやるではないか。これがゴキブリならそうはいかない。殺さないと気がすまないのだ。
この差はなんだ?
思うに、ゴキブリは鳴かないから、こういう扱いを受けるのではないだろうか。鳴かないから愛想なしと思われるのだ。愛想がないくせに、人の家に居候などしているから、叩かれたり、罠を仕掛けられたり、毒を盛られたりするのだ。もし、ゴキブリが鈴虫のような声で鳴いたりする虫なら、こうまで虐待されないだろう。
以前テレビで白いゴキブリを見たことがある。海外のゴキブリで、食用だと言っていたが、もし、人の家に生息しているゴキブリが白いものだったら、こうまでひどい扱いを受けなくてすむかもしれない。しかもその白いゴキブリが鈴虫級の音色を奏でたとしたら、「天使の声」と呼ばれ、重宝がられるかもしれない。そうなれば、ゴキブリの鳴く音に、そっと涙することもあるかもしれない。