1,
ぼくの通った中学校は、火葬場の前にあった。
夏場は窓を全開にしていたため、授業中によく煙がに入ってきた。
いつものことなので、ぼく達は何も感じなかったが、転任してきた先生などは「おお、いいにおいがするのう」などと言って気味の悪さをごまかしていた。
たしかに火葬場の煙というのはいいにおいがする。
魚を焼くにおいだ。
とくに昼飯前だと腹にこたえた。
しかし、弁当に焼き魚が入っていると、食べる気はしなかった。
2,
中学校の近くに小高い丘があった。
そこに赤い小さな鳥居があった。そこから階段が続いていた。
ぼくは、その前を通るたびに、いつも不思議に思っていたことがある。
毎日そこを通っていたのだが、お参りする人を一度も見たことがないのだ。
友達に聞いても誰も見たことがないと言う。
そのくせ、夜になるといつも灯りがついていた。
ある日、新聞配達をしている友達が、「朝5時ごろ、あの前を通ったら行列が出来とった。みんなうつむいとるんよ。怖かった」と言っていた。
「どういう人がお参りしよるんか?」と聞いたら、「どうも孤狗狸さんにとり憑かれた人らしい」と言った。
「気味が悪いのう」とみんな言っていたが、ぼくは『そうか、孤狗狸さんにとり憑かれたら、あそこに行けばいいんか』などと一人で肯いていた。
あれから30年ほど経つが、まだ孤狗狸さんにはとり憑かれてない。
3,
中学3年の時、受験勉強と称して、ぼくはある勉強を必死にやっていた。
それは、国語でも英語でも数学でも社会でも理科でもなかった。
超能力の勉強だった。
目の前にろうそくを立て、精神を集中して火を消す訓練をやっていた。
『これが出来たら合格する!』と勝手に思い込んでやっていた。
2、3ヶ月続けて、何とか火を揺らすことが出来たのは、受験の前日だった。
結局その2、3ヶ月は、他の勉強をしなかった。
しかし何とか受験は合格した。
今でも、合格は超能力のおかげだと思っている。(2001年9月20日)