どのくらい時が過ぎたのだろう
気がつけばぼくはこの家の中を
六本足で歩きながら生きていた。
戸棚の裏に巣をかまえて暮らし
お腹が減った時にだけゴソゴソ
食べ物のある場所に歩いて行く
そういう生活を繰り返している。
戸棚裏の巣の中は優しい家族に
囲まれた平和で幸福な世界だが
表の通りに出るとそこは戦場で
用心しながら歩いて行かないと
二本足生物に見つかってしまう。
奴らはぼくらの姿を見つけると
しつこく襲いかかってくるのだ。
仲間が奴らに殺られている様を
一度目撃したことがあるのだが
それはそれは残酷なものだった。
奴らの一撃を浴びたその仲間は
頭は取れかかり、手脚はもがれ
内臓が横腹から飛び出していた。
そんな無残な姿になりながらも
逃げようともがいている仲間に
奴らは更なる一撃を加えたのだ。
生まれてこのかた一度たりとも
二本足に悪さをしたことはない。
ただ本能に従ってこの家の中を
六本足で歩いているだけなのだ。
どうしてぼくらはそういう目に
遭わなければならないのだろう。