くきなみ村から

人生万事大丈夫

夏の風物詩


 最近見かけなくなったもののひとつに、蠅とり紙というものがある。よく魚屋とかに天井から吊るしてある、両面がベタベタしたガムテープのようなものだ。
 ぼくの家は、高校の頃までポットントイレだったため、よくトイレからくそ蝿が飛んできた。トイレの中に蛆殺しなどを散布して、元から絶とうとしたのだが、なかなか追いつかない。しかたなくこの蝿とり紙を仕掛けていた。

 しかし、食卓の上で揺れている蝿とり紙ほど、汚く感じたものはない。頭の上を、蠅の着いた蠅とり紙が行ったり来たりしているのだ。もし、食事中に蠅とり紙が落ちてきたとしたら・・・。考えただけでも、恐ろしいことである。
 それにしても、よくあの状態で食事が出来たものだ。それだけ時代や人間が、野性的だったとも言える。

 今仮にあの頃の夏の生活を強いられるとなると、ちょっと考えものである。
 異臭とメタンガスの発生源、ポットントイレ。
 食卓の上には、見るからに汚い蠅とり紙。
 ひっきりなしに攻めてくる蚊の群れ。
 空中をしつこく飛び回る、大型のくそ蠅。
 照明器具めがけて飛ぶゴキブリ。
 ・・・
 あな恐ろしや。


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