くきなみ村から

人生万事大丈夫

【詩】赤いエプロン

就職をした頃のこと
職場の掃除をやっていると、
後ろから「すいません」という
小さな声が聞こえた。

振り向くとそこにいたのは、
初めて見る同期の女性。
その時突然ぼくの目に、
浮かんだ一つの光景──

 赤いエプロンを着けて、
 台所の向こう側で、
 笑顔でうなずきながら、
 料理している彼女の姿。

その時はただの疲れだと、
気にもとめなかったけれど、
なぜか偶然が重なって、
二人はつきあい始めた。

その後ぼくたちは結ばれ、
二人で生活を始めた。
居間でくつろぐぼくの目に、
映った一つの光景──

 赤いエプロンを着けて、
 台所の向こう側で、
 笑顔でうなずきながら、
 料理している彼女の姿。

出会った頃は疲れだと、
気にもしてなかったけれど、
あのとき浮かんだ光景は、
未来の一コマだった。

 赤いエプロンを着けて、
 台所の向こう側で、
 笑顔でうなずきながら、
 料理している彼女の姿。

今もぼくたちは二人で、
ありふれた生活をしている。
テーブルのイスにさりげなく、
かかる赤いエプロン。