二十歳の頃、アルバイト先で
ある女性を好きになったことがある。
そのことを友人に相談すると、彼は
彼女に「好きだと告白しろ」と言う。
ぼくとしては自分の心の中に、
好きという気持ちをもっともっと
温めていきたかったのだが、
えらくその友人がせき立てる。
その勢いに乗せられたぼくは、
好きな気持ちが温まらないままに
「好きだ」と彼女に打ち明けた。
ところがその瞬間に、
好きが好きでなくなってしまった。
以降好きはドンドン冷めていき、
『「好き」と言ったことは、
間違いだったから忘れてほしい』
とさえ思ったものだった。
「好き」と告白することは、
果たして美しいことなのだろうか。
「好き」と告白することは、
果たして恋の常道なのだろうか。
「好き」と打ち明けないから
好きでいられるということもあるし、
「好き」と言えないほど好き、
というのもあるに違いない。
決して告白がすべてではない。
「好き」と言ってしまったことで、
好きという気持ちが瞬時に冷め、
恋というものに自信をなくしたぼくは、
二十代の中のかなり長い時間を、
「好き」について考えていたものだった。